15163.jpg
警察、殺人事件の捜査忘れて7年間放置、被告人の「免訴」要求は認められる?
2016年11月12日 09時41分

警察が事件の存在を忘れ、約7年も捜査を放置していた殺人事件の裁判が、鹿児島地裁で開かれている。被告人側は、捜査が長年放置され、憲法に定められた「迅速に裁判を受ける権利」が保障されなかったとして、「免訴」(有罪・無罪の判断をせずに裁判を打ち切ること)を要求。判決が11月14日に言い渡される。

殺人の罪に問われているのは、鹿児島市の男性(65)。2008年に介護していた当時81歳の母親と無理心中をしようとして、首を絞めて殺害したとして起訴された。

NHKの報道によると、男性は心中に失敗して入院。警察は男性の快復を待って捜査する方針だったが、2015年までの約7年間、捜査を放置していた。放置の理由について、証人尋問された元警察官は「日常の事件に追われているうちに、事件の存在や後任への引き継ぎを忘れてしまった」と述べている。

男性側の免訴の要求が認められる可能性はあるのか。神尾尊礼弁護士に聞いた。

警察が事件の存在を忘れ、約7年も捜査を放置していた殺人事件の裁判が、鹿児島地裁で開かれている。被告人側は、捜査が長年放置され、憲法に定められた「迅速に裁判を受ける権利」が保障されなかったとして、「免訴」(有罪・無罪の判断をせずに裁判を打ち切ること)を要求。判決が11月14日に言い渡される。

殺人の罪に問われているのは、鹿児島市の男性(65)。2008年に介護していた当時81歳の母親と無理心中をしようとして、首を絞めて殺害したとして起訴された。

NHKの報道によると、男性は心中に失敗して入院。警察は男性の快復を待って捜査する方針だったが、2015年までの約7年間、捜査を放置していた。放置の理由について、証人尋問された元警察官は「日常の事件に追われているうちに、事件の存在や後任への引き継ぎを忘れてしまった」と述べている。

男性側の免訴の要求が認められる可能性はあるのか。神尾尊礼弁護士に聞いた。

●「遅延」では、唯一の免訴判決「高田事件」とは?

ーー免訴とはどういうものですか?

たとえば、時効が成立していた場合、有罪か無罪かで審理を続けても意味がないですよね。免訴判決とは、そうした場合などに「裁判手続を打ち切る」判決のことです。

「時効完成」など法律で要件が定められていますが、「裁判等が遅延した」ことは、免訴事由には入っていません。

ーーでは、今回の被告人の言い分はおかしい?

検討する余地がないわけではありません。手続の遅延について争われたものとして、「高田事件」という有名な事例を紹介しましょう。これは、裁判の途中で「15年以上」審理が行われなかった事案です。

最高裁は、「審理の著しい遅延の結果、迅速な裁判の保障条項(注:憲法37条1項)によって憲法がまもろうとしている被告人の諸利益が著しく害せられると認められる異常な事態が生ずるに至った場合」には、時効完成に準じると判断し、「非常な救済制度」として免訴判決による審理打ち切りを認めました。

このように、裁判が非常に遅れた場合には、免訴判決が出されます。しかし、前例は、この高田事件以外にないとされています。裁判所自体が「非常な救済制度」というほどですから、「極めてまれ」と考えるべきでしょう。

なお、2003年には「裁判の迅速化に関する法律」が制定され、我々弁護士も可能な限りの迅速化を意識しているところです。

ーー今回の裁判はどう判断できるのか?

本件では、「起訴」が遅れただけで、「裁判手続」自体が遅れたわけではありません。ここが高田事件との大きな違いです。

起訴されれば、必ず判断を下さなければならない「裁判所」(高田事件)と、起訴するか否かの一定の自由がある「捜査機関」(本件)とを同視することは難しいと思います。また、高田事件とは経過している年数も違います。判決前ですので結論を述べるのは控えますが、相当な理屈が必要だろうと思います。

起訴がいくら遅れても、行った行為が変わるわけでも、罪が軽くなるわけでもありません。警察官が取調べを怠ったから被告人の裁判が遅れた、だから被告人がかわいそうだ、罪を軽くしろと言っても、空虚な主張だろうと思います。「起訴が遅れた」という主張が、どこまで意味のある主張として肉付けされているか、注目したいと思います。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る