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職場に戻れず、子育てにも苦しむ「マタハラドミノ倒し」悪循環をどう断ち切るべきか?
2015年09月23日 07時58分

働く女性が妊娠や出産をきっかけに、職場で肉体的・精神的な嫌がらせや、不当な扱いを受ける「マタニティハラスメント」が注目されている。略語の「マタハラ」は、2014年のユーキャン流行語・新語大賞のトップテンにも入った。マタハラ問題の現状について、支援団体の「マタハラnet」をサポートする新村響子弁護士に聞いた。(取材・構成/具志堅浩二)

新村弁護士の動画はこちら。

https://www.youtube.com/watch?v=nVZ9bdeTZZY

働く女性が妊娠や出産をきっかけに、職場で肉体的・精神的な嫌がらせや、不当な扱いを受ける「マタニティハラスメント」が注目されている。略語の「マタハラ」は、2014年のユーキャン流行語・新語大賞のトップテンにも入った。マタハラ問題の現状について、支援団体の「マタハラnet」をサポートする新村響子弁護士に聞いた。(取材・構成/具志堅浩二)

新村弁護士の動画はこちら。

https://www.youtube.com/watch?v=nVZ9bdeTZZY

●「妊娠や出産を契機として行われた降格」は違法

新村弁護士は「最近、『これ、マタハラですか?』という言葉ではじまるマタニティハラスメントがらみの相談が増えています。これまでマタハラだとわからず、仕方がないとあきらめていた人が、マタハラだと気付きはじめたのではないでしょうか」と語る。

これまでマタハラ関係の案件は少なかったが、今年はマタハラnetなどを通じて多数の相談が寄せられ、すでに2件の担当案件が同時に進行しているそうだ。労働組合など他の機関でも、マタハラに関する相談が急増しているという。

「昨年10月の最高裁判決がなければ、マタハラがここまで脚光を浴びることはなかったのかもしれません」

これは、広島市の女性が男女雇用機会均等法違反で勤務先を訴えた裁判の最高裁判決のことだ。マタハラについて最高裁が判断した初のケースだった。

原告の女性は、妊娠した際に今までより負担の軽い部署への異動を希望したところ、異動後に副主任から降格され、育児休業が終わって復職した後もそのままだった。原告は、この降格措置が、男女雇用機会均等法9条3項に違反する無効なものだとして提訴した。最高裁は判決でこの降格が違法で無効と判断し、審理を広島高裁に差し戻した。

「ポイントは、妊娠や出産を『契機として』行われた降格などの不利益取扱いは、原則として違法であることを明言したことです」。本人の自由な意思による承諾や、業務上の必要性が高く法の趣旨に反しない特段の事情がある場合といったわずかな例外を除いては、違法となることを確認した意味も大きいという。この最高裁判決が、今後のマタハラ裁判にも影響を及ぼす可能性が高いそうだ。

●メモか録音で証拠を取ることが大事

「あくまでも感覚ですが」と前置きしつつ、新村弁護士は、育児休業後の職場復帰を拒否される案件が増えつつあると感じている。

たとえば、ある女性の場合、所属部署で人余りの状況になったことを理由に、会社から育児休業後に復職せず、退職するよう言われた。本人は復職を希望しているが、会社側は金銭での解決をもちかけて、何とか退職させたがっている。ほかにも、復職後にこれまでのキャリアとは別の部署へ配転し、自発的に退職するように促すケースがあるそうだ。

「育児介護休業法10条は、『事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない』と定めています。育休は復職前提で取得するものですから、元の職場に戻すのは当然のことです」

なぜマタハラは起きるのか。新村弁護士は、「マタハラで法律違反をバリバリやってしまうのは、法律を知らないことが理由の1つにあげられます。たとえば、マタハラ研修を通じて、女性の権利や保護の内容について教育・啓発する必要があると思います」と指摘する。

また、日本の働き方も問題視する。「長時間労働と残業が当たり前の中で、男性と同じように働けない女性は使いづらい、と雇用側は考えがちではないでしょうか。男性でも介護のために早く帰る人もいるはずですし、様々な事情を抱える労働者を弾力的に受け入れる体制を追求しても良いと思います」

一方、マタハラの被害にあったら、どうすれば良いだろうか。新村弁護士は「まずあきらめないことが大切。その上で、証拠を取ること。メモか、できれば録音。あと、早めに弁護士や各都道府県労働局の雇用均等室などの相談機関に相談してください」とアドバイスする。

●会社を辞めると再起が難しい

新村弁護士にとって印象深いのは、労働審判で有期契約社員に育児休業の取得を認めさせたケースだ。弁護士登録の翌年のことだった。

パートの女性が、育児休業を取得したいと職場の所長に申し出たところ、所長は「タイミングが悪い」「1年の育休が取れるのは正社員だけ」などと言って拒否するとともに、契約期間の末日で雇い止めにすると通告した。そこで、育児休業を所得する資格を有する地位の確認を求めて、東京地裁に労働審判を申し立てた。

「マタハラでは初めて担当する案件だったことに加え、理想的に解決できたという点でも思い入れ深いものがあります」

この事案では、会社側が申立の趣旨を認めたため、育児休業を認めることを含めた内容で調停が成立。女性の保育園の諸手続きに会社が協力することや、休業直前の部署・職務に復職させることなど、復職後を視野に入れた項目も盛り込まれた。女性は育児休業を取得後、職場に復帰。今も勤務中で、子どもは9歳になった。

しかし、復職を果たすケースは珍しく、他の案件では女性が会社を辞めてしまうケースも多いという。

「会社を辞めてしまうと、再起が難しいんです。無職では保育園に子どもを預けられず、雇ってもらうことも難しい、という悪循環にはまりがちです。こういう状況を『マタハラドミノ倒し』と呼んでいます。やはり、職場に復帰するかたちの解決が望ましいのです」

弁護士を目指したのは、広く人権問題に取り組みたかったから。弁護士になれば、人権侵害を受けている人の役に立てるほか、政策提言によって、世の中を変えていける可能性もある。

「マタハラの問題に取り組むことは、弁護士を目指したときの思いとつながっていて、やりがいを感じます」

(弁護士ドットコムニュース)

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