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有料配信で活動再開、吉本興業と松本人志さんに残る課題 「人権とビジネス」の観点から考える
2025年11月08日 09時49分
#松本人志 #DOWNTOWN+

「ダウンタウン」の松本人志さんが、11月1日開始のインターネット有料配信サービス「DOWNTOWN+(ダウンタウンプラス)」で活動を再開した。

2023年12月、松本さんに性的行為を迫られたとする女性の告発を『週刊文春』が掲載。これを受けて、2024年1月から活動を休止していた。報道をめぐっては、発行元の文藝春秋を相手に5億5000万円の損害賠償を求めて提訴したが、その後訴訟を取り下げている。

初回生配信で、松本さんはスタジオの観客から「おかえり」などの声や拍手を送られる中、「日本の笑いが最近しんどいと聞きまして。私、復活することにいたしました」と語った。

この「ダウンタウンプラス」は、松本さんの所属事務所である吉本興業が運営している。テレビ各局で松本さんの番組が終了する中で、有料配信という形での活動再開をどう捉えるべきか──。

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長の伊藤和子弁護士は「ビジネスと人権」の観点から、松本さんと吉本興業の対応には依然として課題が残ると指摘する。

「ダウンタウン」の松本人志さんが、11月1日開始のインターネット有料配信サービス「DOWNTOWN+(ダウンタウンプラス)」で活動を再開した。

2023年12月、松本さんに性的行為を迫られたとする女性の告発を『週刊文春』が掲載。これを受けて、2024年1月から活動を休止していた。報道をめぐっては、発行元の文藝春秋を相手に5億5000万円の損害賠償を求めて提訴したが、その後訴訟を取り下げている。

初回生配信で、松本さんはスタジオの観客から「おかえり」などの声や拍手を送られる中、「日本の笑いが最近しんどいと聞きまして。私、復活することにいたしました」と語った。

この「ダウンタウンプラス」は、松本さんの所属事務所である吉本興業が運営している。テレビ各局で松本さんの番組が終了する中で、有料配信という形での活動再開をどう捉えるべきか──。

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長の伊藤和子弁護士は「ビジネスと人権」の観点から、松本さんと吉本興業の対応には依然として課題が残ると指摘する。

●「申し訳ない」と謝罪した相手

初回配信で松本さんは、訴訟について「話し合いで解決した」「裁判終わるまで今日から数えても多分2年ぐらいかかる。これ以上、みなさんを待たせられない」と説明した。

また、活動休止で迷惑をかけたとして、「申し訳ない」とお詫びの言葉を口にした相手は、芸人仲間や後輩、「穴を埋めてくれた人たち」、スタイリスト、メイク、ドライバー、そして相方の浜田雅功さんらだった。

●吉本興業「様々な事情を総合的に考慮・検討」

弁護士ドットコムニュースは、松本さんの活動再開に関する見解を吉本興業に問い合わせた。吉本興業からは、次の回答が届いた。

「弊社は、2024年1月に公表したとおり、当該事案について真摯に対応すべき問題と認識し、外部弁護士等による事実確認をはじめ、様々な対応をしてまいりました。コンプライアンス・人権に関する弊社の方針等については、これまで公表したとおりです。

そして、裁判の終結等様々な事情を総合的に考慮・検討し、外部弁護士らの意見聴取や外部有識者等で構成されるガバナンス委員会への報告等を経て、このたび、松本人志らによる新たなコンテンツを開始することとしたものです。

弊社は、既に公表したとおり、コンプライアンスの強化や人権尊重の周知に向けて、度重ねて研修を実施し、人権リスク等を踏まえた人権ポリシーを策定したほか、本年9月より『プロダクションマナービデオ』を導入するなど、様々な取組みを実行しています。今後とも、全ての社員及び所属タレントにおいてコンプライアンスの遵守及び人権の尊重が徹底されるよう努めてまいります。」

松本さんの活動再開について、伊藤和子弁護士に聞いた。

●伊藤和子弁護士「説明責任は果たされたとは言えない」

画像タイトル 伊藤和子弁護士

──松本さんの芸能界復帰をどのように受け止めましたか。

一般論として、およそ松本さんが復帰すべきでない、とは言いません。

しかし、それは事実関係を公正に調査して明らかにしたうえで、被害が確認されれば救済を実現し、さらに松本さんも責任をとり、説明責任も果たした──という前提があって初めて成立します。

それを経ないままの復帰には、やはり問題が残ると考えます。

タレント個人だけでなく、吉本興業としての責任も問われていると思います。仮に事実関係に争いがあるのなら、公平中立な第三者委員会を設置し、調査結果を公表すべきだったのではないでしょうか。

松本さん本人も吉本も、記者会見などで説明しておらず、復帰に至る経緯の透明性には疑問が残ります。

●有料配信なら問題ないのか?

──地上波ではなく、有料配信で「見たい人が見る」という形式だから「問題ない」との意見もあります。

たしかに地上波を扱う放送事業者には、放送法などに基づく高い公益性が求められます。しかし、有料配信であっても、関連事業者には「ビジネスと人権」に関する指導原則は適用されます。

画像タイトル 「ダウンタウンプラス」のアプリアイコン

さらに言えば、これは吉本と松本さんだけの問題ではありません。「ビジネスと人権」の考え方に基づく企業責任は取引先にも及びます。

企業は、取引先の人権上のリスクにも対処する責任があります。番組の共演者には、他の事務所所属のタレントもいますが、関係各社は、人権問題が未解決であることをどのように評価して出演を決めたのか、疑問です。さらにいえば、吉本興業と取引関係のある関連企業は「ビジネスと人権」の観点で、どういう認識でいるのでしょうか。

●メディアは「PR機関」になっていないか

──松本さんの復帰はメディアでも取り上げられています。

旧ジャニーズ事務所の性加害問題では、メディアが沈黙してきたことも批判されました。

ジャニーズに不祥事があっても、メディアは長らく沈黙してきました。事務所に忖度した報道姿勢について、国連の「ビジネスと人権作業部会」は、メディアが性加害の「隠蔽に加担してきた」と問題視しました。

今回の松本さんの復帰報道を見ても、その反省が十分に生かされていないと感じます。説明責任が果たされていない段階で、「松本人志復帰」を無批判にPRする機関に成り下がっていないでしょうか。メディア自身の責任も問われます。

(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

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