「夏休みに子ども3人を連れて帰省した妻が帰ってきません」
弁護士ドットコムにこんな相談が寄せられました。相談者の男性によると、妻からは帰省先から「離婚したい」とのメッセージが届き、あわせて「離婚が成立するまでは生活費を支払ってほしい」と求められたといいます。
妻が離婚を望む理由について、男性は「日常生活の中での不満があったのではないか」と推測しています。
男性自身は食事の支度や育児にも関わっていたといいますが、妻は「マイペースで家事や育児に時間がかかる」ことに不満を抱いていたようで、そのことで口論になることも多かったそうです。
突然離婚を切り出され、今後、妻がどこで生活するのか、子どもをどう育てていくつもりなのかもわからず、男性は戸惑いつつも「できることなら、子どもたちとまた一緒に暮らしたい」と強く願っています。
今後、夫婦は離婚に進むのか、それとも関係修復はできるのか。近藤美香弁護士に聞きました。
●妻が話し合いに応じない場合は?
──妻が離婚の意思を示し、事実上の別居状態となっている場合でも、夫が離婚を望まないときに可能な交渉や法的手続きにはどのようなものがありますか。
「妻が子どもを連れて突然家を出て行ってしまったが、円満に関係を修復したい」という相談は珍しくありません。
まず必要なのは、妻に気持ちを変えてもらうことです。そのためには、自身のこれまでの言動を振り返り、改善する意思を率直に伝え、話し合いの場を持つことをおすすめします。つまり、この段階で最優先すべき相手は、弁護士ではなく、配偶者です。
夫婦には「同居義務」(民法752条)がありますが、裁判所がこれを実際に認めることはほとんどなく、仮に主張しても、妻が戻ってくる可能性は低いでしょう。
妻がどうしても話し合いに応じない場合は、家庭裁判所に「円満調停」(夫婦関係調整事件の円満調停)を申し立てる方法もあります。
ただし、いきなり調停を申し立てることで、妻の反発を招き、かえって離婚調停や婚姻費用分担調停を申し立てられる可能性もあるため、必ずしも有効とは限りません。
●夫の収入が高い場合は「婚姻費用」を支払う義務
──相談者は会社員、妻はパート勤務で収入差が大きいとのことです。夫には別居中も生活費を支払う義務があるのでしょうか。また、妻が実家で暮らしている場合でも同様でしょうか。
夫の収入が妻より高い場合、夫には「婚姻費用」(生活費)を支払う義務があります。
金額は、夫婦の話し合いで決められますが、折り合えない場合は、裁判所が参考にしている「婚姻費用算定表」を基準とすることが一般的です。弁護士が相談を受ける場合も、この算定表を参考にしています。
なお、妻が実家で生活している場合でも、婚姻費用の支払い義務は生じます。
●男性「妻はモラハラと受け取っていたかも」
──男性によると、妻は「家事や育児、仕事の時間配分がうまくできない」と訴えており、外出の準備が間に合わないなどの場面で男性が怒ることもあったといいます。男性は自身も「そうした態度がモラハラと受け取られていた可能性がある」としています。離婚を避けたい場合、どのような対応や心構えが必要でしょうか。
もし男性が「怒ったのは妻が悪いからだ」と考えているようでは、関係修復は難しいでしょう。妻が別居のうえ離婚を希望しているという事実は、すでに「耐えがたい不満」を抱いていた証左です。修復に応じてもらうことは簡単ではありません。
それでも本当に修復を望むなら、不合理に怒ったことを心から反省し、「妻が苦手なことは自分が積極的に担う」といった覚悟を持つ必要があります。