17596.jpg
「父から犯されているんですけど」妻の連れ子に性的暴行、父親の身勝手な動機とは
2022年02月06日 10時05分

妻の連れ子で養子縁組をしている娘のAさん(当時14歳)と性交したとして監護者性交等に問われていた父親(年齢、氏名非公開)に対して、横浜地裁(鈴木秀行裁判長)は1月13日、父親に懲役6年の判決を言い渡した(求刑懲役7年)。

法廷では、被害者である娘が「なんてクソな親なんだろうと思いました」と話すほどに、両親の身勝手な発言が飛び出していた。(ライター・高橋ユキ)

妻の連れ子で養子縁組をしている娘のAさん(当時14歳)と性交したとして監護者性交等に問われていた父親(年齢、氏名非公開)に対して、横浜地裁(鈴木秀行裁判長)は1月13日、父親に懲役6年の判決を言い渡した(求刑懲役7年)。

法廷では、被害者である娘が「なんてクソな親なんだろうと思いました」と話すほどに、両親の身勝手な発言が飛び出していた。(ライター・高橋ユキ)

●他の家族の目を盗んで…

がっちりした体型、モノトーンのブルゾンにデニムというカジュアルな装いの被告人。親の名前が公開されれば被害者である子のプライバシーにも影響がおよぶため、監護者による事件は被告人名はおろか年齢や住所等も伏せられる。

風貌から年代を推測することしかできないが、40〜50代の働き盛りに見える。読み上げられた起訴状によれば、2021年5月に横浜市内の自宅でAさんと性交したとされるが、冒頭陳述からは、その数年前から性的暴力があったことが分かった。

Aさんの母親は、被告人と夫婦になったのち、被告人との間に5人の子をもうけた。被告人は6人の子、そして妻との暮らしの中で、他の家族の目を盗んで、少なくとも2017年以降から、Aさんに性的暴力を繰り返していたという。

●「父から犯されているんですけど」

そして事件当日、被告人はAさんを寝室に呼びつけ、マッサージをするように要求。Aさんの下着の中へ手を入れてから性交に及んだ。のちにAさんが学校へ相談したことから、児童相談所経由で被害が警察に伝わり、逮捕に至ったという。

「今年(2021年)の6月1日の放課後に聞いた。『先生ちょっと話があるんですけど……父から犯されているんですけど……』と話した」(Aさんの学校関係者の調書)

友人にはそれ以前の被害も告白していた。

被告人も起訴事実を認めており、またそれ以前の性的暴力も調書で認めていた。

「本件以外にも性的行為をしていた。体を触るようになったのは、中1の頃。被害者が高校生と交際しているのを知り、嫉妬心が沸いてきた。父親以上恋人未満の気持ちを抱くようになった」(被告人の調書)

●「被害者への独占欲が働いてしまって…」

2021年11月に行われた弁護側被告人質問でも「いけないことだと分かりながらも、僕の、被害者への独占欲が働いてしまって……。自分さえという安易な考えからこういうことになった」と、Aさんを独占したいという気持ちから犯行に及んだと語り、反省の気持ちも示した。

被告人が繰り返してきたのはAさんに対する性的暴力だけではない。Aさんだけでなく他の子に対しても、頭を叩く、体を蹴るなど身体的な暴力があった。さらには妻への暴力も繰り返してきたことが分かっている。妻への暴力は2017年には、通行人が目撃して通報に至ったこともあった。こうした暴力行為の背景には、独りよがりがあったと自ら分析する。

「家族に対しては、自分が間違っていないと思って行動していました……。家族への僕への対応だったり、当時は間違ってないと認識してしまってて、手をあげてしまう時や、口論が絶えないとか、口論で終わらないとき、手をあげたり、そういうところがあったことは、間違いないですし、本当に申し訳ない……」(被告人質問での証言)

粗暴な行為を繰り返してきた被告人だったが、法廷ではしきりに反省を示し、終始小さな声で証言を続ける。妻への暴力を家族が目の当たりにしてしまうことは“面前DV”にあたると弁護人が指摘すると、涙を流しながらこう語った。

「僕も小さい時、両親の喧嘩を見るの、嫌だったんで……こんな思いかと……どういうことなのか、気持ちはよく分かります……当時は自分は間違ってないと思って生活していました……」

●検察官が厳しく追及「なぜそんな欲が生まれる?」

家族を自身の所有物であるかのように振る舞っていた被告人、法廷での涙は本物なのか、検察官が厳しく追及した。

検察官「あなた、今回の事件を起こした理由として『独占欲と支配欲』があったと言っていますが、意味が分からない。なぜそんな欲が生まれるんですか?」

被告人「……なんて言うんですかね……成長に伴い、背を向けられる寂しさ……それで独占欲が芽生え、手を出してしまった……」

検察官「独占欲って言って、結局何をしたかったんですか?」

被告人「……(小さな声で聞こえない)」

検察官「なぜそういう欲求が出るんですか?単なる性的欲求ですよね?」

被告人「違います……」

検察官「なぜ独占欲から性的興奮に繋がるんですかね?」

被告人「……どこか、血が繋がってないという意識あった……」

●「家族だから、一緒に暮らしているからいいだろうと…」

追及は止まらず、畳みかけるように質問が続く。

検察官「犯行から児童相談所に被害者が保護されるまで、どういう気持ちで被害者に接したんですか?」

被告人「後ろめたさ、正直ありましたが、当時は、すごい嫌がられてなかった、っていうのあったので……」

検察官「どういう気持ちですか? 嫌がってなかったら別にいいと?」

被告人「そういうわけではないです……」

検察官「あなた『家族だからハードルが低かった』とも言っていましたね。どういう意味ですか?」

被告人「一緒に生活してる関係で、犯罪意識が低下して、家族だから、一緒に暮らしてるからいいだろうと……」

●妻「被告人と娘、共に一緒に暮らしたい」

Aさんは公判当時、児童相談所に保護されており、他の家族とは離れて暮らしていた。被告人の妻でありAさんの母親が、どこまでAさんを守るつもりなのかも今後重要になる。しかしAさんの母は、被告人の情状証人として出廷し、被告人に寄り添い監督していくと証言した。そのうえAさんと皆で暮らしたいとも語った。

「早く帰ってきて話し合いがしたい。私は何年、何十年後でも一緒に暮らしたい。被告人と娘、共にです。被告人には帰ってきてもらいたいです」

一方で「娘の味方です」とも述べるAさんの母親には、再び検察官が真意を正した。

検察官「あなたも暴力をふるわれてきて、お子さんにも。しかも繰り返されていますよね。どう思ってるんですか?しつけだから構わないと?」

Aさんの母親「思ってません!!」

検察官「逮捕まで被告人の暴力的なところは直ってないんじゃないですか?」

Aさんの母親「いやでも、最近はありませんとは取調べで言いました!」

検察官「悪化してますし全然直ってないですよね。同じ女性としてあなたはどう思ってるんですか?」

Aさんの母親「把握してなかったので!」

検察官「あなたは娘さんの味方と言ってますが、被告人の逮捕当初は『Aさんのほうが嘘をついてる』と言ってましたよね。これはなぜなんですか?」

Aさんの母親「ありえないと思ったからです」

検察官「Aさんが嘘をつく理由はなんだと思ったんですか?」

Aさんの母親「何も言ってくれなかったからです!」

●「なんてクソな親なんだろうと思いました」

こうした両親の証言を、Aさんは検察官席の後ろにある衝立の奥から、被害者参加弁護士とともに聞いていたようだ。昨年12月に開かれた公判の意見陳述では、被害者参加弁護士がAさんの言葉を代読した。

「裁判を見て、なんてクソな親なんだろうと思いました。父だけでなく母にも思いました。私は母との面会で『お父さんが怖い、お父さんがいたら帰れない』と言いましたが、母は尋問で『言ってない』と言いました。なぜ、と思ったし、離婚する考えがないということにもすごく驚きました。おかしくね?

お父さんにも苛立ちました。私やきょうだいに手をあげてきたのに、子供たちが怪我をすることはなかったとも言っていました。いやいや、きょうだいは五針縫う怪我をしています。

母は父に『早く出てきてほしい』と言いますが、私は出てきて欲しくない。もし外で会ったら、何されるかわからない。なるべく長く刑務所にいてほしい」(Aさんの意見陳述代読)

自身も暴力をふるわれていながら、夫に寄り添うと宣言した母親。泣きながら反省を述べながらも、家族への暴力の実態を小さく話す父親。そんなふたりを目の当たりにしたAさんの絶望はいかばかりか。被告人は判決が言い渡された後、一旦は控訴したが、これを取り下げ、懲役6年確定している。

【プロフィール】高橋ユキ(ライター):1974年生まれ。プログラマーを経て、ライターに。中でも裁判傍聴が専門。2005年から傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。主な著書に「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(徳間書店)「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」(晶文社)など。好きな食べ物は氷。

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る