犯罪・刑事事件の解決事例
#医療過誤

緑内障の既往のある患者に禁忌とされる硫酸アトロピンを投与し、急性緑内障発作をおこした事案

Lawyer Image
小林 洋二 弁護士が解決
所属事務所九州合同法律事務所
所在地福岡県 福岡市東区

この事例の依頼主

60代 男性

相談前の状況

相談者は65歳の漁師さんです。早期大腸癌手術及び膀胱腫瘍精査目的でB病院の泌尿器科に入院しました。まず、膀胱腫瘍に対する生検が実施され、良性であることが判明しました。その後、外科に転院し、外科と泌尿器科との合同で、膀胱腫瘍切除術と大腸癌切除術が実施されました。視力の低下は術後2日目から訴えられていましたが、眼科の診療が行われたのは、それから5日後です。その結果、両眼瞳孔の散大と左眼圧の著明な上昇が認められ、急性緑内障と診断されました。その時点で、左眼は、既に20センチの近距離で指数弁となっていました。以降、緑内障に対する薬物治療が行われましたが、視力障害は徐々に進行し、最終的には、左眼失明、右眼矯正視力0.2で症状固定となりました。立体視が不可能となり、船の運転が困難になったAさんは、漁師の仕事を続けることができなくなってしまいました。病院側からの説明で、大腸癌手術の前投薬として硫酸アトロピンが使用されていたことが分かりました。この薬は、緑内障の既往がある患者には、緑内障を悪化させる危険があることから禁忌とされています。相談者の話では、病院は責任を認めており、適切な損害を算定してほしいとのことでした。

解決への流れ

後遺障害7級相当で慰謝料と逸失利益を算定して病院宛に請求書を送ったところ、相談者の話から予想していた対応とは全く異なり、責任を全否定する返事が、さほど日をおかずに届きました。すぐに提訴。請求書の日付と、訴状の日付が2ヶ月しか空いていないのは、わたしの経験ではあまり類のない短さです。相談者は、入院の際に緑内障の既往があることを申告しており、生検の際には、硫酸アトロピンの使用は回避されています。このことが、大腸癌手術のスタッフに伝わっていなかったことが、本件事故の原因でした。こんな事故で、なぜ病院が責任を否定する姿勢に転じたのか、よく分かりません。訴訟での被告の主張も、「硫酸アトロピンは、点眼であればともかく、麻酔前投薬としての投与であれば眼圧に影響はない」、「添付文書で緑内障に禁忌とされていても、臨床現場では実際に使われることも多い」、「患者の左眼は本件手術前から慢性緑内障で失明状態であり、硫酸アトロピンによって視力が低下したものではない」といった、後から考えたことが明らかなものばかりでした。相手方病院眼科医の証人尋問を経て、請求額の約7割程度の和解が成立しました。

Lawyer Image
小林 洋二 弁護士からのコメント

患者あるいは家族に対する事故後の説明では病院が責任を認めているようでも、弁護士が代理人について損害賠償を請求してみると責任を争ってくるというケースはよくあります。本件は、病院の責任が明らかでしたが、実際に調査してみると、病院に責任があるとはいえない場合も珍しくありません。そのため、わたしは、病院側の説明がいかなるものであれ、医療調査として受任することを前提としています。「相手がすでに責任を認めているのに難しいことばかり言う」と不快に思われる相談者もおられるようですが、調査もせずに楽観的な見通しを述べるわけにはいかないということを理解していただければと思っています。